SSブログ

意味のベクトル ③. [僕の こじつけシンクロニシティ物語]

 心理的不幸の基本は、葛藤である、と僕は思う。
 逆に言えば、葛藤がなければ、その人は幸福であると言える。
  
 「これで、いいのだ。」
 バカボンのパパの決めゼリフ。
 これは、葛藤の強制終了のための呪文である。
 とても有効で、意味のある呪文だ。
 なぜなら、強制終了自体に、意味があるから。
 
 二者択一の問題が目の前にあり、葛藤が始まった時点で、もう100パーセントの答えは、ない。
 葛藤が続く時間幅。それは、有限である人生の時間幅の中に、確実にその幅を占める。それ自体が、既に不幸の選択そのものである。
 
 歌手デビューした後に転身して人気脚本家となったユニークな経歴を持つ相沢友子が、昔、「恋ノチカラ」(深津絵里主演)というテレビドラマ内で、自分のやりたいように生きる才能ある広告クリエーターに、こんなセリフを吐かせたことがある。
 「後悔する奴は、何やったって後悔するんだ。」
 なるほど。きっと彼女にとって、会心のセリフだったに違いない。
  
 後悔。
 結果が出た後、あるべき別の正解への執着的思い。
 後悔したくない。だから、僕たちは、葛藤する。
 
 僕は、比較的、後悔はしない方である。
 「しても詮無きこと」という理性的な、あるいは未来志向的な割り切りからではない。
 後悔の多くは、実際以上の自己評価、つまり自惚れから来ると、僕は思っているからだ。
 「おまえに、本当に、悔しがる資格があるか?」と、僕は問う。
 
 やったことが、できたことなのだ。
 これは、後悔に苦しむ人への、僕からの慰めでもある。
 
 もっと言うなら、後悔は欺瞞である。
 過去を振り返り、自分の間違った作為、あるいは不作為を思う時、それは、行為者(つまり自分)を責めるために都合のいい部分だけをピックアップしていることが多い。
 その行為を為した時の状況には、無数の事象が絡んでいる。もう一回そこへ、きちんと記憶を戻して、さっき自分を後悔させた材料以外の事象をできるだけ多く思い出し、その時の心理状態を想起して、判断してみる。すると、それを後悔するほど、自分は立派ではないと悟れるはずだ。
 少なくとも、僕は、そうだ。
 
 実際、葛藤の中にある時、僕は、何が正解か教えてほしいという気持ちになることは、よくある。
 しかし、正解とは何だろう。
 結果として、自分を、より利することか。
 さて、それで、何者かに正解を教えてもらい、良き結果を得たところで、それにいかほどのものなのか。
 問題は、ベストでないもの、ベターでないものを選択してしまうことを恐れている、この苦痛な時間そのものではないのか。
 つまり、葛藤そのものが、問題ではないのか。
 
 この、意味のベクトルの探求者は、何を、どうしたいのだろう。
 
 バカボンパパの「これでいいのだ。」という強制終了は、もちろん、有効で意味のある方法である。
 だが、何か違う。
 葛藤を続けることでは、もちろんなく、それを強制終了することでもない何かを、僕は求めている。
 
 人間の自己中心性。無自覚な悪意。悪気なき人の実害性。
 それらは、僕に厭世感をもたらし、世情は、日々、それらの確かさを裏付けている。
 そして、僕は、実際に葛藤を超えることを夢見る。
 動機は、寂しさという事実である。
 
 ‘世界’は、きっと語っている。
 きっと、意味のベクトルを放っている。
 それを聴き、見出し、その事実自体が、僕を‘世界’の秩序に触れさせるのである。
 自分自身が、その葛藤が、秩序の一部として知覚される時、僕には、僕が幸福を得るために選択するという志向はないはずである。秩序=生きるという状態そのものが幸福であれば、最早、幸福であるための理由を必要としていないからである。
 「理由のない幸福がある。」
 これが、僕の信仰であり、福音なのだろう。
 
 僕は、みじめな現実からの逃避を正当化する大義名分を考えているだけなのだろうか。
 確かなことは、少なくとも、そのように非難する‘正常な’人たち、確信を持って人に幸福を保証する宗教教団の妄信者には、事実として、僕へのどんな言葉も持ち合わせていないということである。

 

                                                          了

 

 

 

 


nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:blog

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。