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行為の理由 [僕の こじつけシンクロニシティ物語]

              理由なんかないさ
              おまえが欲しい
                                      (「スローなブギにしてくれ」 詞:松本隆 曲・歌:南佳孝)
 
 情報と選択肢が途方もなく増大した現在。
 僕たちは、常に、理由を探している。
 僕が、そうする理由。
 
 衝動。迷い。分析。消去法。選択。
 その時、僕たちの、行為の理由とは何だろう。
 
 最近読んだ小説、「船を待つ」(諸星大二郎)は、奇しくも、それがテーマだった。
 
 いつ船が来るか分からない船着場。その近くにある倉庫まがいの宿泊所に、常時、複数の人間が寝泊りしている。そんな彼らのやりとりを描いた物語だ。
 それぞれの人間が、船を待つという目的で、その場所に何日も、ある者は何週間も滞在しているわけだが、誰も、船でその町を出た後の目的がはっきりしていない。
 みんな、自分自身、その事実を無意識に抑圧していて、他人に、その点を指摘し責め合うというストーリーだ。
 何ヶ月かに1回、不定期に船は来る。
 そのたび毎に、待っている人の中から自殺者が出る。
 船を待っている間は、待っているという目的に自分を納得させて日々を生きることができる。だが、船が実際に来るとなった時、つまり、その先の目的(=生きる理由)を問われた時、誰かが自殺してしまうのだ。それも、待っている期間、威勢よく自己主張し、他人を批判していた者が。
 船を待っている一人である主人公の男は、宿泊所の近くの食堂でバイトしている女の子(=オモちゃん)に、図らずも恋心を抱く。
 オモちゃんは、以前に、やはり宿泊所で待つある男に、いっしょに船に乗ることを誘われた経験を持っていた。その男は、船が来た前日に自殺したという。
彼女は、その男の誘いへの返事を保留していた。自分が乗るはっきりとした理由がなかったからだ。
主人公の男も、オモちゃんに、そんな‘駆け落ち’のようなことを誘うのだが、以前の経験もあって、彼女は断る。
そして、主人公の男にとっての船が来る前日。
彼女は彼に言う。
 「うん……。でも、考えてみると、理由なんて必要ないのかもね……」
 主人公の男は、その言葉に衝撃を受ける。そこに理由が必要ないのなら……僕がここにいる理由は何だろう? と。
 彼は訊く。
 「理由がなくて……オモちゃんは船に乗れる?」
 「どうかしら? あたしがもし一人で船に乗るとしたら……そうね、その時に何か理由を作るかもしれないわ」
 「でも、それって、もしかしたら一番悪いことかしら?」
 
 
 
 それにしても──、
 「理由」とは何だろう。
 僕の行為の理由とは何だろう。
 そして、その理由は、本質的な意味での幸福をもたらすだろうか。
 
 僕たちは、知的なアプローチで、その理由を探す。
 この小説の待ち人たちのように。
 だが、実際のところ、本当の確信をもたらし、それに基づく行為を、強く、また自然に、持続させるような理由を持つ人は、この世界中に、どのくらいいるのだろう。
 大多数の人は、損得の尺度に頼り、自分の行為の理由を導き出さざるを得ない。
 僕たちは、それにより、より得することを得るかもしれない。
 得することで、確かに、僕たちは、一定の満足感を得る。
 だが、結局、知るのだ。その理由は、贋物であることを。
 得することと幸福は、実際、別次元にある。
 その関係は、必ずしも背反しないが、幸福が、得することへのアプローチの延長上にないことは、どうやら間違いない。
 
 お金で買えないものがあるわ。
 それは、愛よ。
 
 と、どこかで聞いた言い回しに乗っかり、得意げに似たようなことをのたまうつもりは、さらさらない。むしろ、そんな人を見ると、虫唾が走る。
 アレルギーに近い。
 
 僕に、何が解っているわけではない。
 だが、‘愛’という何かは、彼らがその言葉を使って悦に入るそれとは、全く別次元にあることだけは、なぜか、はっきりと解る。
 たぶん、真の行為を見出すことと愛を見出すことは同義である。
 一般に、行為の理由は、利己性に基づいている。
 だから、行為の理由を見つめることが、愛を知るアプローチになると、僕には思えるのだ。

 

 

 

蜘蛛の糸は必ず切れる

蜘蛛の糸は必ず切れる

  • 作者: 諸星 大二郎
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2007/09/11
  • メディア: 単行本

 

 

 

 

 


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