『無気力一代男日記』 1.奇妙な居場所 [俯瞰日記]
追い込まれないと、人は動かない。
かの文豪ドストエフスキーでさえ、締め切りギリギリまで書き始めることができなかったというエピソードを何かで読んだことがある。
これまでの人間の歴史上の経験から推察すれば、地球上で今使われているエネルギー資源の中心は石油だが、それが枯渇して初めて、我々は次のエネルギー問題に本気で取り組むということらしい。
個人的レベルに引き落とせば、僕がレンタルで借りた映画のDVDを見るのは、返却期限の前日ならいいほうだという事実に似ていなくもない。
最近、仕事が一つ減った。
僕はある零細企業の正社員で、現場で働く人員の管理業務をやっている身である。
この不景気で会社全体の仕事量が極端に減った今、僕自身がどこかの現業に直接従事しないと、給料分稼いでいないということになる。
これまで、僕が参加する現業は週3日だった。内1日は、土曜日午前中の2時間程。
今回、土曜の部分がなくなり、平日の2日分のみになったというわけだ。
元より、僕は給料分なんて稼いでいなかった。
原価計算すれば、容易に分かることだ。
社長ですら、週に数日、現業に入っている。
この社長・瀬崎については、おいおいに語ることになるだろう。
生産性だけで考えれば、僕はリストラ対象になってもおかしくないのだ。
なのに、僕がなぜ無事でいられるのか。
僕をリストラしても、僕が現在当たっている2日の現業とわずかな報告業務を、誰か他の人がしなければならなくなるだけのことである。
それを、我が社の専務・弘前は、やりたくない。
それだけの理由だ。
弘前は、会社の業務展開や実務処理について考えることがとにかく煩わしく、何もしたくないし、何をしていいのかも分からないのだが、専務としての一定の収入は欲しい。そういう男だ。
つまり、僕は、この弘前専務の無能さと無気力さ、そしてズルさに助けられて、無事でいられるわけだ。
この状況に対して、僕は感謝している。
世の中とは不思議なものだ。
常識的な意味での非合理性、あるいは不条理性が、僕を助けている。
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