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『無気力一代男日記』 10.千の核ミサイルを迎撃する [俯瞰日記]

 スキルには、ある程度の自信があった(『無気力一代男日記』 8.もう一つの仕掛け)。
 今日、その僕が、ミスを指摘された。そのミスで実害が出る前に、後工程(社員・島村が仕切るチーム)のメンバーがフォローした形になった。
 先方の担当課長が不快感を示したという。島村の現場に加わっている瀬崎社長は、その課長に、うちの仕事が切られはしないかと常にビクビクしている。特にこういうことがあると、その恐怖の感情が増幅し、苛立ちを僕に向けてくるというのが前々からのお決まりパターンだ。
 島村は、喜々として、僕と、僕の管理下にある江藤──今月から水曜の作業に僕がねじ込んだアルバイトだ──のミスの内容説明をしに来た。
 僕のミスは、先方の担当課長に報告され、江藤のミスは、あまりに深刻なミスなので隠してあるという。
 先方の評価的には、僕のほうが劣等生ということになっている。
 やれやれ。皮肉な話だ。
 江藤のドジをある程度予測して、その前提で段取りを考えていたら、「お、おれかい!」みたいな……。落とし穴が、僕の後ろにあったというわけだ。
 
 しかし、今回の僕のミス。
 不注意と言えば、それまでだが、正直、あまり自分自身への反省の気持ちは湧いてこなかった。
 というのも、僕の場合、結果としてミスが出ないよう、自分の適性、欠点に応じた独自の作業システムを既に確立している。つまり、今、このシステムに則ること以上に加えられる客観的方法はないのだ。
 システムを信じすぎて、それに、安易に乗っかっただけになってしまったことが問題だったのだろうか。
 だが、そもそもは、常にミスをする恐怖を持ちながら作業をするのが嫌だから、‘それに乗っかっていれば大丈夫!’というシステムを、僕は作ったのだ。
 作業中の全ての時間に集中することは、どんな人間にも不可能である。それを踏まえて尚、作業内容を結果として確かなものにするのがシステムであり、それは、必要以上に神経をすり減らさないための知恵でもある。
 今回も、そのシステム通り、愚直に実行した。それだけのことだ。
 
 もともと、この作業は、譬えて言えば、毎回、千の核ミサイルを全て迎撃するという仕事である。
 それを、前衛の我々が、たまに1、2発見逃した場合、後方部隊(つまり島村チーム)が迎撃して、当社として事なきを得るという構造なのだが、奇妙なことに、島村はそういったことがある度毎に、鬼の首を取ったように、こちらの見逃しを非難してくるのだ。
 彼らは、こちらが逃したものをフォローしているのだから、自分たちのほうが格段に優れているのだと、本気で思い込んでいるようなのだ。
 その前に、ほとんど全て、俺が既に打ち落としているんだよ。
 彼らは──残念ながら社長も含めて──、全体の構造を見て想像することがまるでできない、とんだ朝三暮四野郎たちなのである。
 
 嗚呼、とりあえず空しい。
 どんな正しい理屈も、相手が理解できなければ、その相手にとっては、無きに等しい。
 だから、こちらがバカ主張を完璧に反駁、論破しても、その相手は、相変わらず元の愚かしい論理を、自信満々に、しばしば正義感に燃えた怒りを伴って、永遠に主張し続けることができるのだ。
 知は力なり(F.ベーコン)。
 自然法則に対してはそうかもしれないが、人間については、しばしば「愚か者は強者なり」というわけだ。
 
 泣き言を言っていても、事態は変わらない。
 当面は、千発全て迎撃し続けるしかないのだ。
 僕が確立したシステムで、ここは、淡々とやり続けるしかないだろう。
 
 愚か者も、凶悪犯罪者も含めて、世界。
 それを不満に思ったり悲しんだりするのは、子供っぽさであり、甘えでしかない。
 それは事実、前提であり、それを心から踏まえなければ、その個人の人生は失敗に終わるというだけの話である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  


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