『無気力一代男日記』 12.不気味な通達 [俯瞰日記]
弘前専務の話は、先日の僕(と僕が選任したアルバイト)のミスについてだけではなかった。
来週に火曜に、瀬崎社長から話があるから、本社に来るようにという通達を、弘前は話の最後に付け加えるように言った。
いつもの姑息なやり方だ。
最もシリアスな通達は、ついでのように付け加える。
僕にとっての重要なポイントは、ここにあると見た。
来週火曜、僕と瀬崎社長との話し合いが既にセットされている。
自分が経営的に無能であるということは、瀬崎社長も、さすがに自覚している。
社長の身でありながら、現在、週に数日、現業に従事せざるを得ないのは、その意味が大きい。
現業から離れたら、全く何もやっていないことに等しくなる。現に、数年前までは、そんな状態だった。
僕が、スタッフの振り分け、指示、先方の依頼内容や予定の調整などで腐心していた頃、彼は、昼間からパチンコをしていた。やるべきことは山ほどあるはずなのだが、社長として具体的に何をして良いか分からないからだ。
たまに、先方から会社にクレームが入ったら、その内容を把握しようとせず、只、一方的に謝罪するのみである。
そこを利用されれば、先方との契約内容は、こちらにとって徐々に不利なものになる。早く言えば、こちらの付加価値を、極限まで安く買い叩かれるということだ。相手にその気がなくても、実際的な対策を立てることに無関心であることが露呈することによって、会社自体の信用を失う。
そんなスパイラルの過程で、事務所の広さも、スタッフの数も減っていった。今や、せっかく新しい仕事の依頼が入っても、スタッフがいないので請けられないという有様だ。
だが、社長は社長だ。権限は持っている。
自分が、現在従事している現業を拒否することはできる。
最近、数少ない正社員である僕の現業が、2日になった。実質は1日半だ。
瀬崎社長は、ここをチャンスと見て、自分の現業の部分を、僕に押しつけようという腹なのだろう。
権限だけを考えれば、それは可能である。
以前、社長を目の前でバカ呼ばわりして、すぐ様、クビにされたスタッフがいたという。バカ呼ばわりは、さすがにマズいが、そのスタッフの主張自体は正論だったようだ。
以前から、工場での現業に入ってくれないかという打診は受けてきた。もちろん、瀬崎社長が入りたくないからだ。
その都度、僕は、それを曖昧にして、実質、拒否してきた。
いろいろな理由で、僕自身、この現場には入りたくなかったし、これまでは、その打診を何とか跳ね返すだけのスケジュール的理由があった。
一月前、その客観的理由が極めて希薄になった (『無気力一代男日記 1.』。
そこで僕は、軸足を、もう一つの現場に移す形を作り、スケジュールを埋める形を作った (『無気力一代男日記 5.』)。
一応、細工は流々のつもりでいたが、少し甘かったのかもしれない。
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