『無気力一代男日記』 14.このタイミングだから思い出した北池のこと [俯瞰日記]
とにかく、‘蟹工船の糞壺’には入りたくない (『無気力一代男日記』 13.)。
結局、僕のこの嫌な感情の源泉は、そこにある。
胸の苦しさは、昔の片思いの時と同じだ。
心臓の負担に、差別はないようだ。
以前から僕の管理下にある北池というアルバイト・スタッフがいる。
スキル能力が低く、基礎学力、判断能力も、残念ながら平均より劣る奴だ。
半年ほど前、その彼がドジを踏んで、入る現場がなくなった時、‘蟹工船’の現場に研修として入ったことがある。
1週間で追い払われた。
帰り際に「もう明日から来なくていいよ。」と言われたらしい。
追い払ったのは、島村の相棒・川口。彼も数少ない正社員の一人だ。
川口は、感情的にも、北池を嫌ったようだ。
「あいつ、何しゃべってんのか分かんねーよ。」と言っていたことを、当時、島村から聞いた。
北池は、やや吃音の気がある。萎縮すると、それがひどくなるのだ。
彼が、即戦力としてかなり厳しいことは、予測していた。
だが、1週間で放り出すというのは、どうなんだろう、と思った。
僕は、これまで、北池がドジをする度に、北池の入った先方の部署責任者と話し合ってきた。
北池のスキルは、この段階まで(逆に言えば、ここまではできる)だが、当日の急な発注にも対応できるといった先方にとってのメリットと併せて考えてもらい、以降、数年間、その現場への勤務を継続させることができた(結局、決定的なドジをやらかして、そこを辞めざるを得なくなったが)。
現在、週に2日ほど、北池は、また別の会社に作業者として入っている。
そこでも何度か危機があったが、そこの現場責任者と密にやり取りをして、無碍に彼を切れないように取り計らってきた。
幸いなことに、その現場責任者は、彼の生活状況すら気にかけてくれている。
僕と、島村や川口とは、ずいぶんとやり方、考え方に違いがあるようだ。
正直、北池を、特に助けようという気持ちが僕にあるわけではない。
だが、少なくとも、僕のやり方で、何年にもわたって、北池の存在が会社に収益をもたらしているし、北池も、それで給与を得ている。
自分の思うような働きをしないからといって、すぐに切ったら、その時点で、会社への収益は0である。ずっと0である。
どうやら、瀬崎社長には、そういう視点はないようだ。
無理もないのかもしれない。
瀬崎社長が現在、一作業員として入っている島村や川口の現場──実は、社長になる以前に、立ち上げの時から入っていた──からしか、彼は、ものが見えていないのだから (『無気力一代男日記』 12.)。
話し合いは、午後1だと思っていたが、もう2時近くだ。
嗚呼、社長の都合で、今日の話し合い、なくなれ!
電話よ、鳴るな。
そんな祈りも空しく、弘前専務からの電話が入った。
「瀬崎さんが着いたんで、こっちへ来てくれ。」
やれやれ。
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