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寓話 ある神のゲーム [丘の上から]

 自らの努力で財を成し、豊かな暮らしをする男がいた。
 「頑張る人が報われる社会に生まれて良かった。」
 そう言って、彼は、生まれ合わせた社会に感謝した。
 ある時、彼は、多くの無気力で貧しい若者たちを見た。
 「なぜ、私のように頑張ろうとしないのだ。彼らには、自分たちがどれだけこの社会を悪くしているのか分かっているのだろうか。」と、
男は、その存在に苛立ちを覚えた。
 たまたま、ある神が、その光景を見つけるや、ゲームを思いついた。
 
 神は、その男の目の前に姿を現し、言った。
 「おまえは、この社会を良くしたいのかい?」
 「もちろんでございます。でも、そのためには、彼ら無気力な若者に、かつての私のように、もっと頑張ってもらわないと。」
 「そうか。では、もし、おまえが彼らと同じ立場にあったら、もっともっと頑張って社会を変えるというのだな。」
 「もちろんでございます。見ていてイライラします。」
 「では、やってごらん。」
 男は、立ち所に若返った。
 「再び、若さが得られるとは。」と、男は喜んだ。
 「但し、」と、神は言った。
 「おまえの心にある理想はそのまま以前と変わらないが、1つだけ、あの若者らと同じ条件を持ってもらう。」
 「何でしょうか。」
 「おまえの、たまたま持って生まれた商才だ。それを、おまえから取り去った。安いものだ。それ1つだ。」
 「ありがとうございます。」と男は答え、意気揚々と去って行った。
 
 数年が経った。
 神々にとっては、さいころを振って、そのさいの目が出るまでの時間だ。
 かの男は、貧しい若者となっていた。
 以前、男が軽蔑してやまなかった無気力で貧しい若者たちの中にいた。
 だが、この男だけ、無気力ではなかった。

 神が、話しかけた。
 「どうだい。社会は変えられたかい?」
 「いいえ。変えられませんでした。」
 「それは、がっかりだったね。」
 男は、嬉しそうに答えた。
 「確かに、私は、財を成すことはできませんでした。でも今、彼らと同じ条件で、私が幸福になることは、とてもやりがいのある挑戦です。」
 神は言った。
 「おまえは、おまえ一人分、社会を変えたようだね。」


  

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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