キャバクラ大作戦!② [出かければ場違い ─僕と‘外’の関係─]
2005年05月03日
僕は、こういう店のシステムを何も知らなかった。どうやら、指名していなければ、15分か20分おきに女の子が入れ替わるようだ。もし指名していたら、その子が空いていればすぐ付いてくれるが、他の指名客に付いていたら、その間、別の女の子がつなぎ(店の子はヘルプと呼んでいた)として付く。指名の子が自分に付いてからも、他に指名が入れば中座して移っていく。そんな基本パターンを少しずつ学んだ。
いちばん強く印象に残った子は、未紀だった。
と言っても、良い意味でではない。
未紀は、僕と接している時、ほとんど笑うことがなかった。普通に関心が持てない相手と話さざるを得ない時の表情なのだ。その事実が、僕に、定番の傷つきをもたらした。 他の女の子は、押しなべて、僕を勘違いさせて気分よくさせてくれる。金を払うことによる通常の報酬を与えてくれる。それはそれで楽しい印象を残すのだが、結果的により強く残った印象としては、傷つきによる不快感の方だった。
帰り道。電車の中で、僕は、次指名すべきは他ならぬあの子だと思った。
僕の、‘反自我的’行為のために、未紀の存在が必要だと思ったのだ。
反自我的行為とは、自我の傷つきから自由になるためのタパス、すなわち、必要悪としての負荷を自分にかけることである。と言っても、訓練で慣れて克服しようという意味ではない。そういう状況に無感覚になるということではない。むしろその逆で、自我が傷つく様子を、逃げることなく、つぶさに見て、通常は不可避と思えるその傷つきパターンから自由になった心の状態を、熱情をもって探るのである。
キャバクラ大作戦。
そう。これは、僕にとって、人生をかけての大いなるオペレーションだったのだ。
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