俺は‘こいつ’を愛してる。 [古典ポップス体験]
ハロー ベイビー。
音楽を聴いて、初めて鳥肌が立った時のことを覚えているかい?
俺の場合、それは歌い手の声自体によるものだった。
それから後は、詞で、メロディで、といった具合に、それぞれ別な歌い手、別な曲で、それは、やってきた。整理すると、
①声
②詞
③メロディライン
その後、何年も経ってから出会った④種類めの理由は、その人の醸し出すスタイル(かっこよさ)のオーラだった。
ここでは、①について綴ってみたい。
それは、シングルレコード、あの「抱きしめたい」のB面に潜んでいた。
「This Boy」。邦題──、「こいつ」。
期待もせず何気なく聴くのには、格好のタイトルだ。
だから、余計、僕にとってのサプライズになったのかもしれない。
Aメロは、彼らお得意の3重ハーモニー。
と、サビに入った。ジョンの独唱。古期ロックンロールのような、ブルース歌謡のようなメロディ。
Oh, and this boy would be happy,
Just to love you, buy oh my-yi-yi,
That boy won’t be happy,
Till he’s seen you cry-hi-hi.
それは、‘必死切ない’とでも言うべき「哭(おら)び」だった。特に具体的に言うと、上の2行目後半の「バオマーーーー・ザッボーイ」のところ。
思わず、「もういいよ、わかったわかった。」って言いそうになるくらいの叫びに、当時中2の俺には聞こえた。
昔、ある心理学者が言っていた。「基本的に‘必死’っていうのは、人にとって、かっこ悪いことなんですよね。」
たぶん、それはその通りなんだろう。だから、感動したんだと思う。涙が出そうになったんだと思う。
人が、なりふりかまわない時、ふいに‘リアル’が立ち上がることがある。それを俺は、生まれて初めて見た(!)のかもしれない。
レノンが、自分の少年の頃を回想して、「あの頃、ロックだけがリアルだった。」と語ったことがある。彼は、生後18ヶ月で親の離婚に遭い、18歳で母親を交通事故で失っている。
年齢的に、まともに受け止めるには大き過ぎる悲劇の中で出会った‘ロック’という劇薬。
その時、ジョンは、悟ったのかもしれない。「リアルだけが、哀しみを越えさせてくれる」と。
そして、たぶん彼は、その体験に基づいて歌った。
何十年の時を経て、僕に伝わったのは、きっと、その体験自体の真実(リアル)だったのだろう。
そういえば、『かっこいいことはなんてかっこ悪いんだろう』っていう奇妙なタイトルのアルバムを出した歌手が昔いたらしい。実感を言葉にしたら、論理的におかしなことになることは、往々にしてある。
例えば、女性が思ってすぐに言葉を発した時に、そういうことがよく起きる。男は、その時、整合性や首尾一貫性のなさを指摘して、とりあえず笑うのだが。
本気で恋している女性を見て、「あぁ、そんなに好きなんだ。」ってことが、強く伝わってくることがある。そんな時、心が動く。
ラブソングに俺が求めているのは、そんな感動だったりする。
冒頭に挙げた4項目の内の②は、そういう意味での初体験でもあった。
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