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誰のためにでもない涙 [古典ポップス体験]

 この曲。出だしで、決まった。
 ビートルズの「For No One」。

1790453

 夜が明ける
 胸が痛む
 気づけば、彼女の優しい言葉が頭の中を巡っている
 最早、あの子がおまえを必要としていないこの時に

 原詞はこうだ。

 Your day breaks,
 Your mind aches,
 You find that all her words of kindness linger on,
 When she no longer needs you

 Your day breaks …… 。
 Your day だってぇ?
 まったく、白人って奴は、そんな大きな自然現象まで、所有格扱いかよ!
 あ、いや、そこがポイントではないな。
 でも、ちょっとズレたついでに、‘白人’で思い出したことをもう一つ。
 ジョン・レノンの「女は世界の奴隷か?」という曲だ。
 男女平等を訴えるフェミニストの鑑、レノンさま~!ってちょっと待て。
 原題を見てみよう。これだ。
 「Woman is the nigger of the world」。
 女は世界の奴隷か、ではなく、女は世界のくろんぼ野郎かだ。
 nigger とは、黒人種を意味する英語negroからきている差別用語で、現在でも黒人の心と名誉を最も傷つける言葉の一つだ。
 労働者階級の家庭で生まれ育った苦労人の成功者といえども、白人であるジョン・レノンにとって、ニグロ=劣悪人種=奴隷というのは、無意識の前提だったようだ。
 愛に溢れたあのレノンは‘女性を、あのくろんぼ野郎といっしょにするのかぁ、けしから~ん!’と、声高に訴えたのだ。世界に向けて。つまり、ニグロ(黒人)の女性も含まれる多くの国に向けて。

 でも、僕は、ジョンが好き。ってオイ!。
 話を戻そう。
 「For No One」 だったね。

 Your mind aches

 your―二人称だが、これは、当然自分を指している。
 「おまえの胸が痛む」
 痛む自分の胸を客観視した表現だ。たとえば、昔、キョンキョンが、<泣かないで、恋心よ>って歌っていたのと同じ手法。
 この2行目までで、もうこの曲は、僕の気持ちと一体化した。
 切なさで、胸が痛んでいるこの時が早朝だってこと。
 ここが、僕にとって重要だった。
 目が覚めた時って、おそらく、人がいちばん無防備な時ではないか。僕たちは、昼間、社会の中でつつがなく生きるために、人の言葉や出来事から身を守る盾を持っている。あまり心がダメージを受けると、気持ちが萎えて、社会生活を健全に保って生きていけないからだ。
 でも、眠ると僕たちは、その盾を置いてしまう。なぜなら、実際に心身を休めなければ、これまた生きていけないから。
 その盾は、もちろん他人の言葉や行為から自分を守るためにあるのだが、実は、自身の中に既にある痛みや悲しみからも、自分の心を守っている。
 つまり、その盾がなくなると、自分が今持っている哀しみの感情をダイレクトに心が受けてしまう状態になるということだ。
 目が覚めた時。意識は戻っているが、まだ盾を持っていない。それは、そんな微妙な瞬間なのだ。

 夜が明ける
 胸が痛む

 その痛みは、痛みは痛みでも、純粋な痛みだ。純粋な切なさだ。

 And in her eyes you see nothing,
 No sign of love behind the tears cried for no one,
 A love that should have lasted years

 彼女が涙を流していても、それはもう、誰のためでもないし、
 おまえが望む愛とも、全く関係ない。
 それが、あの時、見て取れたじゃないか。

 朝、目覚めた時。むき出しの事実を事実のまま、不可抗力的に受け、それを純粋に感じてしまう瞬間。まぁ、そんなふうに、ポールが思ったかどうかは怪しいが、きっと誰もが持ったことのある、あの切なくて痛い時を、この詞は表現していて、僕は、その‘時のシチュエーション’に強く共感したというわけだ。


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