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単純で真実な告白の歌 [古典ポップス体験]

 ビートルズの「Ob-la-di Ob-la-da」。
 
 只、単純にバカ楽しい曲。そのせいかどうかは分からないが、かつて英国のオンライン投票で、この曲がワースト1に輝いた(?!)ことは、知る人ぞ知る意外な事実である。
 全ての楽器音が、踊っている。特にベース。弾みに弾んでいる。
 それだけで十分な曲。詞は、全体を通して楽しい設定だけに終始した少しも奇をてらったところのない内容である。多くの日本人が洋楽を聴く時、詞の意味は基本的に入ってこないから、サウンドの心地よさが最重要となる。そういう意味で、この曲は、英語をネイティブとしない日本人だからという理由で取りこぼすところのない曲である。
 さて、そんな前提を持つ曲なのだが、僕にとっては、驚きの1行が、その詞の中に含まれている。
 
  Desmond says to Molly ‘Girl I like your face’

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  ある市場で働いているデズモンドという男が、バンド歌手のモーリーに出会った時に語りかけた言葉だ。
 「君の顔が好き」
 あまりに曲調が明るすぎるので、敢えて押さえておくが、これが、今で言うところの‘告り’の言葉ということになる。
 ここに、僕は、ある種のリアリティと潔さを感じたのだ。
 君のハート? 君の瞳? 君の笑顔? そして、トドのつまり、君のすべて…とか。 そういった一見、素直そうな表現。何か、どうも信用できない。まだ気取っている。どこか無意識に飾っているところがある。
 全ての偽善を排除してみたら、誰もが、究極、このデズモンドじゃないのか、と、僕は思った。
 何はどうあれ、とにかく、僕は、
 「君の顔が好き」。
 実のところ、これこそが最高の告白なのかもしれないと。
 
 ちょうど1年くらい前、僕は、日記にこんなことを記したことがある。
 
10月にしては、暑かった。
駅から10分の場所にあるデザイン事務所に入って、仕事を始めた。
エアコンが効いているのは分かったが、僕は、しばらく汗が止まらなかった。
既にテーブルの正面で作業をしていたその子が、「暑いですか?」と聞いてきた。彼女は、僕と所属会社は違うが、同じ仕事チームの一人だ。
僕は答えた。
「この部屋の気温が低くなっていることは分かるし、汗かいてるのは、今、駅から歩いてきた運動量のせいだから。」
右横にいたデザイナーの男が、「一瞬、温度を下げましょうか?」と聞いた。
僕は、少し慌てたように答えた。
「いいですよ。僕一人のために…」
部屋には、他に何人もの各担当のメンバーが既にいて、文字通り涼しい顔でそれぞれの作業をしていたのだ。
するとすかさず、その彼女が言った。
「私も暑いですから。」
僕は少しキョトンとしたが、あまり表情を出さずに厚意を受け入れた。
エアコンの温度は下げられた。
僕は、内心、感動していた。
僕の遠慮の言葉から、彼女の「私も暑い」という言葉までが、間髪を入れないドラマのような速やかな間(マ)だったからだ。
あの間が示す優しさは真似できない。少なくとも僕には。
あんな優しさ、見せられたら……。
僕は、あの子に、アタマが上がらない。
努力も演出もない、あんな青い優しさ、見せられたら……。
出会って好きになるのに1秒もかからなかったというのに、
告白もしていないままに、あの子への気持ちばかりが、
また今日も大きくなったみたいだ。
 
 今回挙げた曲と、あまりにトーンの違う文だが、僕の中では、この日記と「オブラディ・オブラダ」は重なっている。
 この日の日記は、彼女のハートに決定的に惹かれた瞬間を描写しているが、終わりのほうに書いてある通り、好きになったのは、出会った時に他ならない。
 そのあと、さらに惹かれていったとしても、出会った時の前提に依っていることは、紛れもない真実である。
 前提──。
  君の顔が好き
 
  I like your face
 
 モーリーにとって、それで十分だった。いや、最高だったのかもしれない。
 
  And Molly says as she takes him by the hand
  Ob-la-di Ob-la-da life goes on bra
  Lala how the life goes on
 
 だって彼女は、すぐに彼の手をとって、歌い出したのだから。

 

 

 

 


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