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黄金のうたたね [古典ポップス体験]

1755203

 

 ビートルズの「Golden Slumbers 」。

 この曲が喚起するイメージが僕の中にもともとあった心象風景と重なった記憶がある。十代に聴いた時の印象だ。

                 かつて、帰るうちがあった
                 かつて、帰る場所があった

 この出だし2行のあとの感動的なサビの詞は、イギリスに伝わる子守唄(「I Will Sing a Lullaby」)そのままの引用だ。ポール・マッカートニーは、子供の頃聞いたこの唄を巡る記憶を回顧し、そして今、自分の中の少年に歌っている。

 長い月日が流れていた。
 母親の子守唄の声は、慰めに似ている。力の抜けた、まるで絶望しているかのようなトーン。それは、前向きにがんばるべきだ!という脅迫的応援とは無縁である。無条件な‘存在の許し’とでも言うべきその子への感情は、図らずもそんなトーンとして表現されるのだろう。

 寂しい時の、絶望した時の帰り道。北野武の映画のワンシーンのように、僕も、小さくつぶやくように歌っていた。
 自分のことでも、他人のことでも、もはや具体的に助けることができないような時、僕たちは皆、不可抗力的に慰めを欲するのだろう。無理に作る人工的な希望ではなく、寂しさという事実を、哀しさという事実を、そのまま安堵感にしてしまう錬金術のような慰めを。

 あの頃の薄暗い帰り道。寂しい光景だが、僕は、その空間に包み込まれていた。 
 僕たち大人は、あのかつての帰り道の優しい寂しさを、もう味わうことはない。そのことの悲しさを封印して強さ、平気さを演じる。
 でも僕は、人知れず、この封印を解くことができる。
 この歌が、あの子守唄のように慰めてくれるから。

 

 

 


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