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‘ 自殺 ’ という言葉で、思い出したこと [見て取られた自己]

 昔、『妖精の遺書』という本を読んだ。
 伊賀史絵という少女らしい多感さと高い知性を併せ持った内気な少女が自殺するまでの数年にわたる日記(親友との交換日記)を公開した本である。
 中学から高校にかけての、彼女のいろいろなエピソードに、一緒に一喜一憂しながら読んだのを覚えている。
 1枚だけ、本人の写真が載っていた。
 飾り気のない普通の十代のかわいらしい容貌を持った少女。
 僕は、今でも女の子を最初に好きになる時は、この子の面影の影響を受けているような気がする。
 つまり、僕は、この子に恋していたのだ。
 高校を卒業してすぐくらいに、僕は、ある病気で入院したのだが、その時、病院のベッドで、この本を胸に抱えて眠ってしまっていたことがある。たぶん、看護婦さんにとっては、奇妙な光景だったことだろう。

 伊賀さんが、この交換日記を始めて間もない頃(中1の冬)、‘ 自殺について ’ 自分なりの考え方を記した箇所がある(実際に自殺したのは数年後)。

   辛い時、悲しい時、命を絶ちたいと思うのは人間にしかできないことです。
   人間はまだ野獣であった頃の本能を多分に持っています。
   生への執着もその一つです。
   だから自殺する人とは、その本能に打ち勝った人──と考えてもいいのでは                ないでしょうか。
   ということは、自殺は真に人間的な人間のすることとなります。

 もちろんこの時、彼女は、自殺する人の心理状態に十分に共感しながらも、自分自身が自殺する可能性には、まだ否定的だった。       

 「自殺はいけないことだ。」「周りの人を悲しませるからダメ。」「親にもらった大事な命を粗末にすることは許されない。」等々、僕たちがステレオ的に暗記している無敵の正論は昔からあるが、敢てそれらから自由な位置に身を置くことで、真実に肉薄しようという彼女の真剣さに、なぜか、僕は、ある種の癒しを感じていた。
 もちろん、自殺を美化する気もないし、といって、僕は、自殺コメントで最近話題の松本人志のようにいい奴でもないので、‘ テレビ報道が自殺者を増やしているから、それをやめるべき ’ などと憤ったりもしない(主にいじめによる自殺についての言及)。
 さらに言えば、「死を選ぶほどだから、どれほど、本人は辛かったことか。」という模範的な思い量り方も、僕はしない。
 究極、その人は、死を ‘ 選んだ ’ のだ。
 感覚としては、登山に魅せられた人が遭難死したような感じだ。

 余談だが、僕にもいじめられた経験がある。
 じっと耐え抜いたわけでもなく、理想的学園ドラマのように、立ち向かって勇気を学んだわけでもない。
 相手のやっていることは、とても ‘ 分かりやすい悪 ’ だと思えたので、単純に殺そうと思った。‘ 分かりやすい悪 ’ のありがたいところは、殺人を自分に葛藤なく許せるということだ。
 僕は、コンパスの針で(かわいい !?)、相手を刺すことにした(良い子は決して真似しないようにしましょう)。
 相手は、僕が本気で刺しにかかっていることが分かったので、いじめをやめた。
 脅かすという目的意図はなかった。そんな気の利いた戦略はなかった。只、僕の必殺コンパスの針(必殺=必ず殺す)を、相手が偶然よけただけのことだ(ナイス・ドッジ!)。
 と、書いてはみたものの、このあり方は、僕自身にとって諸刃の剣である。何を隠そう、小中学校時代、その ‘ 分かりやすい悪 ’ を、僕自身、別な人間に対して実践していたのだから。
 自分の正義を信じること? 馬鹿げている。
 義憤に燃えること? 馬鹿げている。
 ほぼ全ての人間の怒りは、詰まるところ、個人的なものに過ぎないのだ。
 だから、誰にも正義の名の下に、人を殺す権利はない! などと、僕は言わない。
 代わりに、こう言おう。誰も、人を殺す理由を持つほど、大した存在ではないと。

 おっと、自殺の話だったね。
 本気で、人をかわいそうと思い、心を痛めることは、とてもエネルギーのいることで、相当な精神の消耗を伴う。僕の場合、自殺する人には、その気持ちが向かわないようだ。
 安易に「かわいそう。」とか言って涙を流したり、義憤に駆られている奴は、本当に痛みを感じていない。人の不幸を利用して、MY・優しさ・ゲームをしているに過ぎない。
 暇つぶしの必要な人には、なかなか魅力的なゲームだ。きっと酒も進むことだろう。

 僕は、自殺した伊賀史絵さんという会ったこともない少女に恋をした。
 その理由は、自殺により美化された幻想ではなく、何気なく書かれたこんな一文によるものだったのかもしれない。

   もう三年生になった弟。
   今あの小さな頭の中で何を考えているのかしら。いい姉になってあげたい。


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