幻想は止まらない [丘の上から]
僕は、本当の優しさに会いたいと望んだ。
他人にではなく、自分の中に。
避けがたい憧れ。
美しさへの憧れ。
僕は、優しくない自分と会う度、とても傷ついた。
僕は、傷つくのが怖いので、優しさを演じているに過ぎない。
そこには、優しさの形式があるのみだ。
その時、僕は、分断されている。
優しさに憧れること、それ自体が欺瞞である。
本当の優しさは、不可抗力的に発動する。
僕は、それを知っている。
「いいことをしたあとって、気持ちいいよね。」
嘘だ。
優しさなしに、優しさの形式をたどることは、僕に悪い疲れをもたらす。
優しさの行為を演じることと、優しさとの間には、途方もない乖離がある。
僕は、今、思う。
優しさを演じることで、実際は、人間の本当の優しさの可能性から遠ざかっているのではないかと。
それなら、むしろ自覚的偽善者でありたい。
僕は、偽善者を非難しない。
僕を含め、偽善に助けられている人は大勢いる。
もし、偽善禁止法が施行されたら、たくさんの人たちの生活が脅かされるだろう。
美しいことの入口は、きれいごとではできていない。
きれいごとでできた入口は、決して、美しさに通じていない。
それでも、果たせぬ幻想は止まらない。
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