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‘優しい人’は好きですか? [見て取られた自己]

 「神田川」という往年のフォークグループ、かぐや姫の代表曲がある。
 スタンダード化された曲なので、これまでも、時々耳にする歌ではあったのだが、今、ある程度経験を経てから聴くと、驚くべき情緒表現の1行に気づいた。

  ただ、あなたの優しさが怖かった

 島田紳助の口調で言えば、
 「だいたい女の子とかみんな、‘私、優しい人がいい!’みたいなこと、よう言うやろ? でもな、ほんまに優しい人って──、(トーンを落として)怖いで…。」
 ほとんどの人間は、自分を、優しい人と思われることを望んでいる。だから、それを無意識に、あるいは強迫観念的に演じるのだが、演じている限り、それには限界がある。そもそも、優しいと思われたいという動機自体、他人の自分へのイメージをコントロールしたいというエゴなのだから、結果的に欺瞞とならざるを得ない。
 そんな限界を、僕たちは自分の中で不可抗力的に感じ取っているのだと思う。それゆえに、他人の優しさが、その人のメリットに適ったところで発揮されているということが目に見えたりした時、一瞬、不満を覚えたりするものの、その一方で、どこかホっとしているのではないだろうか。
 誰かが自分に優しくしてくれること。それは、自分にメリットをもたらすし、基本的にありがたいことなのだが、もし、その優しさにエゴがなく、その人が純粋にただただ自分に幸せをもたらしたいという素朴な願いからだったら、それに報いるものは、本当の優しさだけである。さもなくば、残るは、それへの裏切りだけである。もちろん、その相手は、それを返してもらおうなどとは、微塵も思っていない。それだけに、純粋に、自分が問われるのである。
 少なからずの人たちが、優しい人でありたいと望んでいる。しかし、実のところ、優しさは、演技によっても、理念によっても、ましてや、エゴによっても得られない。
 優しい人は、その人にとって不可抗力的に優しいのである。そうでない人が、不可抗力的にそうでないように。
 僕が自分を世界一冷たい人間であると秘かに称しているのは、そんな理由からだ。
 僕は、とりもなおさず、優しい人ではない。だから、本当に優しい人を見た時、思わす涙がこぼれてしまうのだ。
 そしてその涙は、無論、優しさからではない。むしろ、僕が、優しい人の側にいない人であるという証拠なのだ。

  若かったあの頃、何も怖くなかった
  ただ、あなたの優しさが怖かった

 僕は、そう語っているこの唄の主人公を愛する。
 僕もまた、優しい人が畏いからだ。

 


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愛すべき欺瞞 ⅰ [見て取られた自己]

僕が君に出会う。 
君が僕を一瞥する。
その時、君の主観では、僕と出会っていない。
君は、光景の中の一対象物を見ている。店の看板。信号機、街灯、横断歩道。
君は、自分の基準から外れているから却下したという認識自体がない。
悪気のないノーカウント。
君は、君自身の中に差別感覚を持つことはない。
そして、君は無邪気に言う。
「出会いがないのよ、だいたい。」
愛すべき欺瞞とは、そういうものだ。
僕は、たくさん出会っている。
そして僕は、一人だ。
誰のせいでもない。
 
 

タグ:欺瞞
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愛すべき欺瞞 ⅱ [見て取られた自己]

 花子が雅治を好きになった。
 「でも、私こんなブスやし、絶対無理や。」と言う。
 「雅治さんが花ちゃんに振り向かないのは、そういう弱気で卑屈な根性のせいよ。外見のせいにするなんて卑怯よ、最低!」と、結衣は思いやりを込めた強い口調で言った。
 人間は、恐ろしく残酷なことを、なんと善意たっぷりに言うことか。
 誰のせいでもない。
 雅治は、そんな性格の結衣を好きになった。
 結衣は、自然な流れで雅治とつき合い、1年程で別れた。
 結衣は涙を流して、ラヴソングを聴きながら悲しみに浸った。
 「こんな悲しい思いをするくらいなら、最初からつき合わなきゃよかった。あ~あ、この苦しみを知らない花ちゃんがうらやましい。」
 結衣は、あんみつをやけ食いして気持ちを取り直し、切なさを少し楽しむように恋愛の次のステップに進んだ。
 結衣に本気でうらやましがられた花子のほうは、どうやって幸せになるんだろう。
 結衣の善意の励ましによってだろうか。
 「がんばって、花ちゃん。私は、きっと花ちゃんが想像できないくらい傷ついたけど、ほら…、立ち直ったよ。」
 
 

 
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