クールドライくん的 恋 [見て取られた自己]
僕は、端っから、人の優しさなんて期待していない。
でもそれは、逆に、僕が世界でいちばん冷たい人だからなのかもしれない。
10月にしては、暑かった。
駅から10分の場所にあるデザイン事務所に入って、仕事を始めた。
エアコンが効いているのは分かったが、僕は、しばらく汗が止まらなかった。
既にテーブルの正面で作業をしていたその子が、「暑いですか?」と聞いてきた。彼女は、僕と所属会社は違うが、同じ仕事チームの一人だ。
僕は答えた。
「この部屋の気温が低くなっていることは分かるし、汗かいてるのは、今、駅から歩いてきた運動量のせいだから。」
右横にいたデザイナーの男が、「一瞬、温度を下げましょうか?」と聞いた。
僕は、少し慌てたように答えた。
「いいですよ。僕一人のために。」
部屋には、他に何人もの各担当のメンバーが既にいて、涼しい顔でそれぞれの作業をしていたのだ。
するとすかさず、その彼女が言った。
「私も暑いですから。」
僕は少しキョトンとしたが、あまり表情を出さずに厚意を受け入れた。
エアコンの温度は下げられた。
僕は、内心、感動していた。
僕の遠慮の言葉から、彼女の「私も暑い」という言葉までが、間髪を入れないドラマのような速やかな間(マ)だったからだ。
あの間が示す優しさは真似できない。少なくとも僕には。
あんな優しさ、見せられたら……。
僕は、あの子に、アタマが上がらない。
努力も演出もない、あんな青い優しさを見せられたら……。
出会って好きになるのに1秒もかからなかったというのに、
告白もしていないままに、あの子への気持ちばかりが、
また今日も大きくなったみたいだ。
コメント 0