5.正直者は何を見るのか? [『無敵になりたい』]
僕は、唯、正直に生きたいんだ。
そのためには、お金がいる。
「正直に生きることに、どうして、お金がいるんだい。」
お金がなければ、生存が脅かされる。
だから、僕は簡単に、嘘をつく。
「正直に生きることに、お金なんかいらないよ。」
そんなこと、僕には言えない。
僕は──、本気で、嘘をつきたくないと思っているから。
「よく言った。お前は、正直者の第一歩を踏み出してる。珍しい奴じゃ。」
老人は続けた。
「嘘はいかん。嘘つきは泥棒の始まりと言うからのう。」
懐かしいフレーズだね。
「嘘をつくことで、その泥棒は、何を盗むと思う?」
何か、大切なもの。
「おまえが生きている時間じゃ。」
時間?
「世界は、正直で出来ている。嘘をついている時、その間、おまえは、生きていない。」
僕は、この人生の中で、どれだけ、多くの貴重な時間を失ってきたのだろう。
「‘正直に生きることに、お金はいらない。’ この言葉自体、嘘でも真実でもない。」
僕が、それを言った時に、嘘となる。
「その通り。正直さは、たった一つの道。それを阻むものは、魅力的な顔をしている。理想、正義、愛、等々。」
正直に生きる。それ自体が切望としか、今の僕には分からないよ。
「もう少し正確に言えば、正直に生きる、ではなく、正直であることそのものが、生きることであり、それは何かの手段ではなく、それ自体が神聖なことなんじゃ。」
きっと、僕は、葛藤…つまり心で何かと戦っている状態が、嫌なんだと思う。
ねぇ、先生。 僕、‘無敵’になれるかなぁ。
「自分で確かめてみなさい。」
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