香里奈ちゃん、かっこイイー! [いつまでたっても テレビっ子]
知的障害者の役は、以前、和久井映見(『ピュア』)や、石田壱成(『聖者の行進』)などが演じたことがあるが、香里奈は、僕にとって、それらと一線を画している。
人前で、あまり弾けられなくて自分を出すことが下手な香里奈が、この役をやっているところに意味がある。
勝手な想像だが、香里奈は、この役を演じている時、精神の解放を感じているに違いない。
昔、僕は、悪い趣味だが、恋人との日常的な遊びで、どこまでバカっぽさが演じられるかを競っていたことがある。今思えば、お互いに、自分はある程度知的であるという思い上がりがあったから生まれた遊びだったのだろう。
一見、仲のいい男女によくあるじゃれ合いなのだが、図らずも二人は、その時に独特の解放感を味わっていた。
その解放感は、良識的で無難な振る舞いを首尾よくこなしている日常が、知らぬ間に、いかに自分を疲弊させているのかを僕たちに悟らせた。
ドラマ内で、柚子に成り切る香里奈。
モデルのプロポーションが全く出ない服装、不恰好な歩き方、単調で大きな発声。そんな香里奈を見るにつけ、彼女は決して仕事で割り切って演っているのではないと、僕には思えるのだ。
彩ちゃん、かっわいいー! 「ホカベン」#5 [いつまでたっても テレビっ子]
個人が存在するための前提は、‘排他性’である。
それを端的に、客観的に示しているのが生物の免疫機能である。つまり、個の存続を脅かす存在を即座に殺し、また追い出し、無きものとする泣く子も黙る働き。
一方で、僕たち人間は、他者の存在を成り立たせようとする面を持つ。中には、そこに大きな価値を感じ、それを絶対正義と信じ、邁進することに意味を感じる人もいる。
「ホカベン」の主人公、堂本灯(上戸彩)は‘弱者救済’という正論的正義を胸に、張り切って弁護士活動の現場に入っていったのだが、次々に壁にぶつかる。
自分のクライアント(組織)の側が裁判で勝つという義務を果たすことに徹する、やり手の先輩弁護士、工藤玲子(りょう)。今週放送分(第5回)のキモは、そんな工藤のやり方に、灯が異を唱えるシーンだった。
工藤は灯に、苛立ちを抑制した冷静な表情で言う。
「じゃあ、堂本先生に聞くけど──、‘弱者’って何?」
灯が絶句したところを、工藤は畳み掛ける。
「あなたは世間の常識や先入観で勝手に弱者を決めつけてる。それは弁護士として、最大の欠陥よ。」
一昔前なら、善人と悪人が分かりやすく定まっていて、単純な勧善懲悪の構図で万人を納得させることができた。
教育が個性最重要視の方向へ、マスコミが個々の人権至上主義の方向へ深まるにつれ、正義は人の数ほどに多様化し相対化されて、リーダーに祭り上げられた人たちは、拮抗するそれぞれの正義の調整に腐心するのみである。
「‘弱者’って何?」
残念ながら、この根源的問いかけのあと、工藤のセリフは、昔通りの安易な定型句に戻ってしまう。
「依頼人のためなら、どんな手段でも使う。それが弁護士の正義です。」
やはりあとのストーリーの進行上、主人公、堂本灯(善)vs.悪役、工藤玲子(悪)という構図にせざるを得なかったのか。
生物種であれ、国家であれ、そして個人であれ、存続という事実は、排他性が担保するのである。
この原則を忘れた正義も善意も、偽善を免れ得ない。
よほど能天気な自己欺瞞に徹した人でない限り、このクールな事実に、大なり小なり、どこかで直面せざるを得ない。
特に、裁判沙汰になるような局面だと、人間の剥き出しの本質が分かりやすく顕れる。
繰り返すが、少なくとも人間の身体自体は、排他性で動いている。受け入れ、あるいは融合という働きが起きても、それは、存続のための戦略的働きだ。
人間は、心理的過程においても、基本的に、このあり方を批准(!)しているのだが、その心の働きを身体性と切り離して捉えることにより、例外的な行為に走る場合もある。
大きく2つに収斂される。大義という幻想のために自己犠牲を演じる時と、面子という幻想を守るために自殺する時。
だが、本当にそれだけだろうか。
この問いに答えるためには、ドラマ内で、工藤が問いかけた「弱者って何?」という命題と真剣に向き合わなければならない。無自覚に分かりやすい信仰(プログラミング)に従って生きてきたロボット(灯)が、その事実に気づき、その先にあるものを見なければならない。
それにしても、上戸彩ちゃんは、以前の「アタックNo.1」にしろ「エースをねらえ!」にしろ、いじわるされたり罵倒されたりする役がよくハマってるなぁ。何より、決して陰鬱にならないところがいい。
ロックという天職の生かし方 [いつまでたっても テレビっ子]
5月4日放送の『桑田佳祐の音楽寅さん』を見た。
ビートルズの名盤として有名な『アビーロード』の全曲を、空耳アワーの手法で日本語にして歌うという企画だった。
ビートルズの歌とそっくりの発音で作ってあるその詞の内容は、日本の政治を風刺したものだった。
アイロニーとジョークに、ロックが利いている。
言葉の当て方の技術とセンス。ボーカルのレベル。きっちりとした演奏。
これは、桑田佳祐にしかできない仕事だ。
世にも、かっこいい仕事を見せてもらった。
http://www.youtube.com/watch?v=SyJuVj_VezE